ビジネス環境が急速に変化し、顧客ニーズが多様化する現代。過去の成功体験だけに頼った指示命令型のリーダーシップでは、組織の成長に限界があることを多くの経営者が実感しています。
そんな中、世界的に注目を集めているのが「サーバントリーダーシップ」です。これは「リーダーがまずメンバーに奉仕し、その後で導く」という考え方。メンバーの力を最大限に引き出し、組織全体の持続的成長を実現する経営哲学として、多くの成功企業が実践しています。
ここでは、サーバントリーダーシップを実際に導入し、大きな成果を上げている4つの企業事例を詳しくご紹介します。それぞれの企業がどのようにこの理念を実践し、組織文化として定着させているのか。その具体的な取り組みから、活用できるヒントを見つけていきましょう。
アメリカの航空業界で独自のポジションを築いているサウスウエスト航空。その成功の背景には、創業者ハーバート・ケレハー氏の明確なリーダーシップ哲学がありました。
ケレハー氏は「リーダーシップとは、自分が率いる人々のために献身的に身を粉にして働く奉仕者になることであり、人生の喜びや苦しみを分かち合うことなのだ」という信念を持っていました。この考え方は、まさにサーバントリーダーシップの本質を表しています。
多くの企業が「顧客第一」を掲げる中、サウスウエスト航空は「社員第一、顧客第二主義」という一見、逆説的な経営哲学を採用しました。これは、幸せな社員こそが最高のサービスを提供できるという考えに基づいています。
当初、同社には基本的価値観が13個、コンピテンシーが20個、基本理念が5つと、多くの指針が存在していました。しかし、あまりに多くの要素があることで焦点がぼやけ、社員への浸透が不十分でした。そこで、これらを3つのコアバリューに集約することで、明確なメッセージとして発信することに成功しました。
サウスウエスト航空が定めた3つのコアバリューは、「サーバント・ハート」「ウォーリアー・スピリッツ」「楽しむ」です。
特に「サーバント・ハート」の実践として、同社では1日他部署の仕事を体験する制度を導入。これにより、社員同士が相手の立場を理解し、感謝の気持ちを持って協力し合える環境を作り出しています。また、従業員の家族も「サウスウエスト・ファミリー」の一員として扱い、子供を職場に連れてくることも推奨。人を単なる「リソース」として見るのではなく、一人ひとりの人間として大切にする姿勢が、組織全体に浸透しています。
このコアバリューを現場に確実に浸透させるため、「カルチャー・アンバサダー」という専門職を設置。彼らが中心となって、日々の業務の中でコアバリューを体現し、他の社員にも伝播させる役割を担っています。
世界中で愛されるコーヒーチェーン、スターバックス。その成功の秘訣は、明確なコアバリュー・ミッション・ビジョン(MVV)にあります。
同社の基本的な考え方は、「コアバリュー(文化・価値観)・ミッション・ビジョンが明確であれば、具体的な目標や戦略はその都度見えてくる」というもの。この考えに基づき、以下のMVVを設定しています。
コアバリューは「人を大切にする」。これは顧客だけでなく、パートナー(従業員)、サプライヤー、地域社会など、すべてのステークホルダーを含む包括的な価値観です。
ミッションは「私たちはコーヒーを売っているのではなく、コーヒーを提供しながら人を喜ばせるという仕事をしている」。単なる商品販売ではなく、体験価値の提供を重視する姿勢が明確に示されています。
ビジョンは「人々の心に活力と栄養を与えるブランドとして世界で最も知られ、尊敬される企業になる」。これは単なる売上目標ではなく、社会的な存在意義を追求する高い志を表しています。
スターバックスの特徴は、これらのMVVを単なるスローガンに終わらせず、リーダー自らが日々の行動で実践していることです。店舗マネージャーから本社の経営陣まで、すべてのリーダーが「人を大切にする」行動を率先して示すことで、組織全体にその価値観が浸透していきました。
例えば、パートナーの個人的な事情に配慮したシフト調整、キャリア開発のための教育機会の提供、地域社会への貢献活動など、様々な場面でこの価値観が具現化されています。
アメリカのファストフードチェーン、チックフィレイ。同社は「SERVE」と名付けた独自の経営モデルを通じて、サーバントリーダーシップを実践しています。
SERVEは以下の5つの要素から構成される経営モデルです。
「将来を見極め、計画を作りこむ」こと。単に現状に対応するだけでなく、
長期的なビジョンを持って組織を導く重要性を示しています。
「周りの人たちと積極的に関係を持ち成長を助ける」こと。
これはまさにサーバントリーダーシップの核心である、他者の成長を支援する姿勢を表しています。
「常に新たな発明・改善に取り組む」こと。
現状に満足せず、継続的な革新を追求する姿勢が組織の成長には不可欠です。
「ビジネスの結果だけでなく従業員、お客、家族のリレーションシップを重要視する」こと。
数字だけでなく、人との関係性を大切にするバランスの取れた経営観を示しています。
「それぞれの価値を具体化して実行する」こと。理念を行動に移し、日々の業務で体現することの重要性を強調しています。
このSERVEモデルも、明確なMVVに基づいて構築されており、組織全体で共有しやすい形にまとめられています。チックフィレイの成功は、このモデルを全社員が理解し、実践していることによるところが大きいのです。
日本を代表する化粧品メーカー、資生堂。同社でサーバントリーダーシップを実践したのが、会長・社長を務めた池田守男氏です。
池田氏は「サーバントリーダーシップを実践するには、自分が目指そうとしている大きなビジョン、明確な使命がなくてはならない」と語っています。さらに「とくに会社のような組織をサーバントリーダーとして動かそうと思ったら、まずは自分の中に、ミッション、ビジョンを明確に持ち、それを組織のメンバーに伝える努力が不可欠になる」と、リーダー自身の内的な確信の重要性を強調しました。
資生堂の事例で興味深いのは、西洋発のサーバントリーダーシップの概念を、日本の企業文化と巧みに融合させた点です。もともと日本企業には「和」を重んじ、集団の力を引き出す文化がありました。池田氏はこの土壌の上に、より明確なビジョンとミッションを持つサーバントリーダーシップを導入することで、グローバルに通用する経営スタイルを確立しました。
これら4社の事例を通じて見えてくる共通点があります。それは、サーバントリーダーシップの浸透は決して簡単な道のりではないということです。
すべての企業が、明確なビジョン・ミッション・バリューの設定から始めています。そして、それらを単なるお題目に終わらせず、リーダー自らが実践し、組織全体に浸透させるための具体的な仕組みを作っています。サウスウエスト航空のカルチャー・アンバサダー、スターバックスのパートナー教育、チックフィレイのSERVEモデル、資生堂のビジョン共有など、それぞれが独自の方法で理念の実践を促進しています。
また、いずれの企業も「人を大切にする」という基本姿勢を貫いています。これは顧客だけでなく、従業員、その家族、地域社会など、すべてのステークホルダーを含む包括的なアプローチです。
サーバントリーダーシップは、2000年以上前から引き継がれてきた普遍的な思想でありながら、現代のビジネス環境においてこそ、その真価を発揮します。正解のない時代だからこそ、リーダー一人の力ではなく、メンバー全員の知恵と創造性を引き出すことが求められているのです。
本記事で紹介した4つの企業事例は、それぞれ異なる業界、異なる文化背景を持ちながら、サーバントリーダーシップを独自の方法で実践し、成功を収めています。これらの事例から学べることは、画一的な方法論ではなく、自社の文化や状況に合わせた柔軟なアプローチの重要性です。
あなたの組織でサーバントリーダーシップを導入する際は、まず明確なビジョンとミッションを設定し、それをシンプルで覚えやすい形にまとめることから始めてみてはいかがでしょうか。そして、リーダー自らがその理念を体現し、組織全体に浸透させるための具体的な仕組みを構築する。この地道な取り組みこそが、持続的な成長を実現する鍵となるのです。
引用元:レアリゼ公式HP https://www.realiser.co.jp/
レアリゼは組織課題解決のための社員研修、人材育成の専門企業です。代表の真田氏は日本サーバントリーダーシップ協会を設立し、現理事長としてサーバントリーダーシップの普及を通じてさまざまな分野のリーダー育成に注力しています。
レアリゼはよくある研修会社ではありません。長年にわたり心理学や脳機能、進化生物学などを研究し、「人の行動メカニズム」を体系化。人は理屈では動かないと知っているからこそ、本当に効果のある研修や人材育成のサービスを提供できるのです。
富士フイルムやベネッセ、ソニー、NTTといった日本を代表するさまざまな大手企業の人材育成に関与していることが、レアリゼの人材育成・研修の質の高さの証明と言っても過言ではないでしょう。
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